劇団四季ミュージカル『キャッツ(CATS)』より「グロールタイガー – 海賊猫の最期(Growltiger’s Last Stand)」の英語歌詞を見てみると、シャム猫軍の行動が非常によく分かります。
シャム猫軍の船や武器、味方となっていた国など、日本語では描かれていないその様子をしっかりと把握しておきましょう。
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シャム猫軍の動き
グロールタイガーの油断
日本語で歌われている次のパート辺りから、シャム猫軍は少しずつ距離を縮めてきますよね。
グロールタイガーすっかり
グリドルボーンにしびれひたすら慕うは君が面影
荒くれ部下共 姿をかくし(ひそかに
しのびよるはシャム猫軍)―劇団四季ミュージカル 『キャッツ』 より 「グロールタイガー – 海賊猫の最期」(訳詞:浅利慶太)
グロールタイガーはグリドルボーンに心を奪われ、クリュー(乗組員)たちはその場にいない様子が分かりますが、英語だとその情景がより具体的に歌われています。
In the forepeak of the vessel Growltiger sat alone
Concentrating his attention on the lady Griddlebone
And his raffish crew were sleeping in their barrels and their bunks
As the Siamese came creeping in their sampans and their junks―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
まず、グロールタイガーの様子です。
- In the forepeak of the vessel Growltiger sat alone … 船の船首倉でグロールタイガー1人で座り
- Concentrating his attention on the lady Griddlebone … 彼の神経をグリドルボーンに集中させていました
どこにいて、どのように心が奪われたかが伝わってきますね。
一方のクリュー達はどうでしょう?
日本語では「荒くれ部下共姿をかくし」とありましたが、眠っていたんですね!
これは完全なる油断です。
実はこの時、シャム猫軍がサンパンとジャンクで忍び寄ってきていたんです…。サンパンとジャンクとはそれぞれ船の種類ですよ。
シャム猫はタイが原産の猫ですから、彼らが乗ってきた船もアジアの種類。歌詞に使われている単語にもこだわりを感じます!
シャム猫軍は約500匹!?
完全に油断しているグロールタイガーに迫るのは、ギラギラした青い目のシャム猫軍です。
グロールタイガー
私に心奪われ
愛する人も心許してうっとりしびれて
油断しきった(月の光にギラギラ青い目
ジリジリ迫るはシャム猫軍)―劇団四季ミュージカル 『キャッツ』 より 「グロールタイガー – 海賊猫の最期」(訳詞:浅利慶太)
ここのフレーズは、英語だとシャム猫軍の多さが分かるようになっています。
Growltiger had no eye or ear for aught but Griddlebone
And the lady seemed enraptured by his manly baritone
Disposed to relaxation and awaiting no surprise
But the moonlight shone reflected from a thousand bright blue eyes―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
内容はこうです。
“thousand” とは、1,000。
目玉が1,000個ということですから、猫は500匹いることになります。間接的な表現により、不気味さとスリルを感じませんか?
武器と合図
サンパンとジャンクでグロールタイガーの船に忍び寄った後シャム猫軍がどういう行動をとったのか。それは日本語には訳されていない内容になっています。
And closer still and closer the sampans circled round
And yet from all the enemy there was not heard a sound
The foe was armed with toasting forks and cruel carving knives
And the lovers sang their last duet in danger of their lives―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
シャム猫軍はこのようにしてグロールタイガーに忍び寄りました。
- closer still and closer the sampans circled round … 徐々に近づきサンパンでぐるっと囲い
- The foe was armed with toasting forks and cruel carving knives … 敵は長柄のフォークと、残酷な肉切り用大型包丁で武装していた
“there was not heard a sound” は「物音一つしなかった」ですから、シャム猫軍は気配すら感じさせなかった様子が伺えますね。こんな絶体絶命の状況下で人生最後のデュエットを歌っていたなんて…。
そしてとうとうその時は訪れます。
Then Gilbert gave the signal to his fierce Mongolian horde
With a frightful burst of fireworks, the Chinks they swarmed aboard―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
ここも日本語では歌われていない内容です。
- Then Gilbert gave the signal to his fierce Mongolian horde … ギルバートが仲間である凶暴なモンゴルの大群に合図を送る
- With a frightful burst of fireworks, the Chinks they swarmed aboard … ぞっとするような火薬の爆発と共に、中国猫の大群が船に乗り込む
ここまで読んで分かることは、シャム猫(タイ)だけでなく、モンゴルや中国の猫も参戦しているということです。グロールタイガーを討つために、3ヵ国力を合わせているんですね。
グリドルボーンの動き
さて、アジア勢が船に押し掛けた時、グリドルボーンはどうしたか。
その時
グリドルボーンは冷ややかにそしらぬふりで
すぐ逃げ出したおそらく無事に
逃げのびただろう―劇団四季ミュージカル 『キャッツ』 より 「グロールタイガー – 海賊猫の最期」(訳詞:浅利慶太)
ここも英語だと、より具体的に歌われています。
Then Griddlebone she gave a screech, for she was badly skeered
I am sorry to admit it
But she quickly disappeared
She probably escaped with ease
I’m sure she was not drowned
But a serried ring of flashing steel Growltiger did surround―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
グリドルボーンの行動を整理してみましょう。
- she gave a screech … 彼女は鋭い叫び声をあげた
- she was badly skeered … ひどく恐れおののいた
- But she quickly disappeared … しかしすぐさま姿を消した
- She probably escaped with ease … 彼女はおそらく簡単に逃げることができたのだろう
- I’m sure she was not drowned … 彼女が溺れなかったのは間違いない
途中に “I am sorry to admit it” があります。これは「認めたくはないが」というニュアンスです。
つまり「認めたくはないが、彼女はすぐさま姿を消してしまったのです」と歌っていて、熱く愛のデュエットを歌っていたにも関わらず、薄情だ…と言わんばかりのフレーズです。
グロールタイガーの最期
そしてグロールタイガーはどうなったのか。
The ruthless foe pressed forward in stubborn rank on rank
Growltiger to his vast surprise was forced to walk the plank
He who a hundred victims had driven to that drop
At the end of all his crimes was forced to go kerflip kerflop―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
ここの内容は日本語で忠実に訳されていますが、1つだけ分からないのが “kerflip kerflop” 。
“kerflip kerflop” は、どうやら “flip flop” を強調した言い方のようです。
“flip flop” は「旗などがパタパタ鳴る音」や「意見などが急変する」という意味なので「最終的には彼の全ての罪は罪ではなくなった」という意味なのかなと考えています。
日本語では「旗をふって記念日つくられた」となっていますから、罪を犯したグロールタイガーを倒した結果、それは罪のないもの(つまり「記念日」)となった…という解釈なのかもしれません。
ちなみに “walk the plank” の意味については、原作に次のような注釈がありました。
目隠しした捕虜に、舷側から突き出た板の上を歩かせ、海に突き落とす処刑法。十七世紀頃、海賊が捕虜を殺す方法として用いられた。
―T.S.エリオット『キャッツ ポッサムおじさんの猫とつき合う法』(p.28)
海賊映画などで、よく見る処刑法です。グロールタイガーも、あの板の上を歩かなければならなかったようですね…。
記念日についてはこちらの記事も併せてご覧くださいね。
いかがでしたか?
英語で読むと臨場感も違ってきますよね!『キャッツ』を鑑賞する際は、是非シャム猫軍の動きにも注目してみてください。
「グロールタイガー – 海賊猫の最期(Growltiger’s Last Stand)」の、他の記事はこちらから。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。